香象承伝10「緑塔 01」

◆「實際園藝」について
緑塔(りょくとう)の本題に掛かる前に、まず古典多肉植物に関する重要な本を紹介させていただきます。本の名称は「實際園藝」と言い時代を彷彿させる古めかしい書体で表記されております。1926年(大正15年)より出版された当時国内での最先端を行く月刊誌です。私は十代後半より正木五郎先生に園芸、特に外来植物の知識・情報をご教示頂きました。この書籍もそのひとつです。帝大生時代の正木先生にとって園芸植物、中でも洋種の花卉、特に庭園の宿根草球根・樹木等の知識を得る情報源となっていたそうですが、現在では私の「香象承伝」執筆の情報源として、昭和初期から平成までの園芸関係情報を得るための、「正木五郎録」と並ぶ重要書籍です。

實際園藝(誠文堂:現・誠文堂新光社)

石井勇義(いしいゆうぎ:大正、昭和期の花卉園芸教育者)が主幹となり1926 (大正15)年から1941(昭和 16)年まで発行された農業・園芸の技術情報誌です。牧野富太郎先生など錚々たる学者、研究者が各専門事項を執筆担当した、当時の[最新知識]を習得するための名著です。今回の緑塔を始め多肉植物・シャボテンなども随時登場し、東京小石川植物園(現、東京大学大学院理学系研究科)の松崎直枝氏を始め著名人が随所に記述しています。

前述の通り正木先生は帝大生時代以前から本書と、英国園芸雑誌「ガーデナーズ・クロニクル」を購読されていました。英文のため一般庶民にはなじみの薄いものでしたが、世界の園芸界をリードする英国式園芸を知るうえで国内の研究者、園芸家に読まれている世界的園芸雑誌です。昭和38年5月お勤めを退職されて信州に帰郷された時、多量の引っ越し荷物整理の手伝いに行きましたところ、洋書の書籍と共に沢山の段ボ―ル箱の中に入っていた實際園藝を「これは貴重な文献だから君に進呈する。知識向上に活用されたし。」と拝領しました。欠落号もありましたが閲覧で傷んではと思い、後日専門業者に依頼して年・巻・号に統合して合本し、索引も年数をかけてPC に入力済みです。

Crassula pyramidalis  Thunb.「緑塔」
緑塔については 昭和14年刊行の實際園藝 第125巻第7号[珍奇な多肉植物八態]の中に、クラッスラ・アルケリーとあります。他の7種はクラスラ・デセプトリックス。ユーホルビア・カプトメデユーサクリスタータ。コチレドン・ウンデュラータ。アナカムプセロス2種。スタペリア・ノベナッキイ。エケベリア・セトーサ。画像と共に記載された学名はカタカナ表記で、久保田美夫氏が解説しています。

この学名クラッスラ・アルケリーでは[植物学名辞典](清水藤太郎・牧野富太郎共著 昭和10年2月第一書房発行)に記載はありません。後の1995年4月に正木先生から、松居謙二先生が「万谷幸男編 植物学名大辞典」を刊行するとの情報を伺い、すぐに購入依頼の書状を発送し入手しましたが、同書を再度検索するもアルケリーの文字は発見できませんでした。再度ヤコブセン、レキシコンにて検索。しかしここにも無く、専門のGordon Rowley;Crassulaでも見当たりませんでした。結局学名で追うことができず画像での推定となり結果、この学名はC.pyramidalis hyb.の一種で、先生と協議のうえ「大型緑塔」としました。(02に続く)

この記事を書いた人

七宝樹
タイトルは「こうぞうしょうでん」と読みます
長野在住
多肉含めて植物全般「今昔」いろいろを語ります

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