香象承伝13「美花女仙 02」

千歳菊(ちとせぎく)Kensitia pillansii
Erepsia pillansii (Kensit) Liede 
Kensitia pillansii  (Haw.) Schwantes.
両方が植物リストで受け入れられた名前とされています。(2012年12月)

この美しく奇抜な花は花弁一つ一つが愛らしい幼児のスプーンのようです。見る人に「そうですよ、あなたの驚く顔が見たくてこんな花にしました。」と 言っているに違いありません。原産は南アフリカ、西ケープ州ピケットバーグ山脈。標高1,600~3,200フィートの砂岩の土壌に自生します。1940年に南アフリカの植物学者/分類学者Kensit L.BolusのMesembreyanthemum属についての研究を称えるためにKensitia pillansiiと改名され、後の1990年にErepsiaと結合されました。属名のErepsiaは、ギリシャ語のエレプソ(私は隠します の意)に由来していて、花の中心にある雌蕊を覆い隠すように雄蕊が折重なっている形状を指しています。思うに花粉を運んでくれる小さな昆虫類が、重なった雄蕊の間隙に頭を入れる際に花粉を否応なく託され、他の花に行ってまた潜りこむことによって確実に交配受粉が行われるのでしょう。種名のpillansiiは、ケープの植物学者であるネビル・スチュアート・ピランズ(1884-1964)を記念して命名されています。私は60年前よりKensitia pillansii 千歳菊と呼称してきたので、思い出と愛着がありますからこちらを採用しました。時々「せんざい菊」という人ありこれは誤り、「ちとせ菊」です。

葉は帯青灰色で直径約5mm、枝は赤褐色で直径4~8mmで固く折れやすい。高さは80cmまで成長します。驚愕すべき紫紅色の花は直径30~40mm、枝の頂上の花序に一花をつけます。花弁は基部が白く端が紫紅色の匙状、多数の白い糸状雄蕊を有し、他のメセンの花とは全く違う特異な形です。開花期は 8月から9月で、先に紹介したSemnanthe(Erepsia)lacera 清涼 同様、花が昼夜開花したままで開閉しません。

3~4年栽培すると根が密集し樹勢が劣ってくるので、挿し木で更新します。茎の挿し木は、開花後の秋が適期。6~9cmの挿し木を清潔な砂または桐生砂で、深さ3~4cmで挿します。発根は良いほうではないので、発根剤が効果を発揮します。

1922年の報告では、ピケットバーグ地域ムートン渓谷でのこの種の自生状況は「豊富」と伝えられましたが、その後この渓谷の環境はダムと農業によって大きく変更されることとなり、現在では斜面や農業に適さない土地のみに自生しています。Erepsia(Kensitia)pillansiiは現地では「レッドリスト」絶滅危惧種に挙げられています。もし貴方が所有しているなら、美しくも貴重な本種の保存に協力してください。

この記事を書いた人

七宝樹
タイトルは「こうぞうしょうでん」と読みます
長野在住
多肉含めて植物全般「今昔」いろいろを語ります