香象承伝17「薔薇玉」

◆砂漠のバラの薔薇について
「正木五郎録」より砂漠のバラ(Adenium obesum)で思いついたことがあります。「砂漠のバラ」と書かれていますが、なぜか「砂漠の薔薇」は見たことがありません。「バラ」は「薔薇」の文字が宛てられますがこの文字、すぐに書けない文字です。あの刺を持ち豪華な花と香りでよく知られた花木のバラはどこのパンフを見ても「バラ」と表記しています。薔薇ではないのです。岐阜県可児市にある「日本一のバラ園」と謳われた「ぎふワールド・ローズガーデン」の公園案内パンフには数えきれないバラの文字がありますが、すべてカタカナの「バラ」で漢字の薔薇は全くありません。

一方、池田理代子氏による1972年~1973年発刊の漫画作品『ベルサイユのばら』通称「ベルばら」。フランス革命前のフランスを舞台に、男装の麗人オスカルとフランス王妃マリー・アントワネットらの人生を描く、史実を基にした悲恋フィクション作品です。ベルサイユ宮殿に燃え上がる恋の炎!その題名は「バラ」でも「薔薇」でもない『ばら』が正しいのです。

実は女仙にこの漢字を当てた種名があります。Argyroderuma fissum ssp.brevipes  こちらは薔薇玉と記して「ソウビギョク」と読みます。ショウビギョクは誤り、ましてバラタマなどにいたっては嘆かわしい限り。

ところが広辞苑で検索したところ「バラ」の表示は無く、“ばら”{薔薇}①いばら(茨)②バラ科バラ亜科の落葉潅木の総称。(以下略)
そして “しょうび”と引くと{薔薇}(ソウビとも)いばら・ばら。―きせき「薔薇輝石」・―すい「薔薇水」・―せきえい「薔薇石英」とあり、これらはすべて“しょうび”と発音します。ではなぜ薔薇玉は「ソウビギョク」なのでしょうか。

◆そこで登場するのが「正木五郎先生手紙録」です。

2032ページ(1981年2月7日)『薔薇 貴君お尋ねの薔薇玉はソウビ玉と読めることにつき偶然本日「軽井沢ものがたり」という本を読む機会を得て再びこれに付き再言することになりました。(中略)明治大正時代の高等女学校などで教え、彼女たちに愛唱された唱歌がありました。最初の唄い出だしのところに薔薇花咲く―――云々とあり楽譜には明らかにソウビ花さくと記していました。老生としてはショウビと読まずソウビと読むのが我が意を得たりの音調と感じ、アルギロのあの命名にこの読みを採りました。ショウビ玉とかバラ玉なんてとんでもないことに思えます。(原文のまま)』

先生の手紙にはソウビと読む文献を他に探したところ、偶然「軽井沢ものがたり」に「さうび(ソウビの旧字)」の文字が刻まれた歌碑の所在が記されていたとあり、「所在地は軽井沢の京ヶ池という奥まった場所の道脇」と綴られています。確認したところ、この碑は現在「雲場池」のほとりに移築されていました。雲場池の源流は、明治11年に明治天皇が軽井沢宿本陣敷地内に新設された「御昼行在所」にて昼食をとられた時に、このお水端の湧水が御前水として選定され使用されたそうです。興味ある方は軽井沢御膳水で検索してみて下さい。

この記事を書いた人

七宝樹
タイトルは「こうぞうしょうでん」と読みます
長野在住
多肉含めて植物全般「今昔」いろいろを語ります

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