香象承伝03「Worsleya procera 01」
Worsleya procera ( syn.Worsleya rayneri ) 別名:ブラジルの皇后
本種については以前、サキュレント452号と、熱帯植物友の会会報第135号に掲載済みですが、当時は開花した事実のみの公開で、過日複数の方から細部の情報を求められたので改めて記述します。
◆はじめに
私は1965年頃より世界の珍品貴種と言われる植物を探し求めておりました。中でもハワイの世界的珍奇植物 銀剣草(別名Silver sword)Argyroxiphium sandwicenseを育ててみたいと思い、正木五郎先生と共に種子を求めて様々な植物の種子を扱う海外の種子会社各社からカタログを2部ずつ取り寄せ、その所在を探っていました。そのなかで1974年、イギリス・トンプソン&モーガン社のカタログをご覧になった先生から「中村君、銀剣草に勝るとも劣らない大珍品、ブルーアマリリスを発見!」との吉報が飛び込んできました。
以下先生の手紙には・・・「トンプソンカタログではアマリリス・プロセラ(Amaryllis procera)とあるが、属名のアマリリスは女性名詞なので、(1954年)ピアース社のカタログのWorsleya rayneriが正しく、云々。(中略)」
≪この属名には紆余曲折あり、ワースレヤはアマリリダ科のメンバーではありますがAmaryllisではなく、一属一種の常緑球根種、Worsleya procera, syn. W. rayneri(別名:ブラジルの皇后)が正式な学名となります。両方の名前が使用されていますが、現在受け入れられている名前はW. proceraです。当初Amaryllisとの分類がされていたので“ブルーアマリリス”と称されましたが、2021年現在はWorsleya proceraが正式であります。≫
「貴君におかれてはこの大珍品を見逃すことなく、30粒の大量買い付けをお勧めする次第にて候。妄言多謝。(以下略)」とありました。トンプソン社のカタログには「弊社独自のネットワークにより、採種に多大な危険を伴って手に入れたもので、この貴重な種子を皆様に提供できることを誇りに思う。」とあり、3粒£2.5と書かれていました。当時のレートで計算すると手数料込みで1粒約600円になります。私とすれば仰天するほどの高価な種子、しかも輸入種子の不発芽は日常茶飯事でしたから、先生の推奨にもかかわらず3粒のみ購入することにして郵便局に行きました。局では英国に送金する客など皆無だったので、中央に電話してあれこれ聞きながら用紙に記入して完了するありさまでした。
やがて到着した種子を直ちに播種、待望の2本の発芽に成功しましたが、当時は栽培法の情報は皆無で生育は遅々としていました。以来待つこと20年、1994年2月の寒中に開花しました。
開花時は外気温がマイナス12度まで下がる信州小諸ですので、温室の加温不足のためか6輪の花がそれぞれ半分しか花弁が開きませんでした。しかし、その紫を帯びた幻想的な色彩はヒマラヤの青いケシ以上で、長かったそれまでの年月を忘れました。
早速この写真を正木先生に郵送したところ「素晴らしい!即、新聞社に連絡されたし。」と激賞されました。実はそれより以前に珍品ヒマラヤのブル―ポピーの種子をT&M社より入手し、自宅庭で開花した時も先生曰く「すぐ植物に造詣深い某新聞社に電話したまえ!おそらく国内開花は初めての筈。」と。しかし、標高620mの低高度では青い花色が薄れとても電話する気にならず聞き流しました。其の翌年初夏、同新聞紙上に「世界の珍品ヒマラヤの青いケシ初めて箱根で開花」と写真を添えて発表され、栽培者は六城何某氏とありました。正木先生は「中村君、昨年開花した時連絡していれば『初めて小諸で開花』となったのに」と、しきりに残念そうに申されました。
閑話休題
その後開花株は調子を崩し、見る間にやせ細って生命維持がやっとの有様でした。幸い株の根元から2本の子株が出ましたのでそれをはずし5号鉢に植えました。小苗から再度挑戦の幾年月、12年が経過した2006年9月7日15時30分。栽培していた一本がついに蕾を上げてきました。
正に文字通り狂喜乱舞の心境、お察し下さい。
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タイトルは「こうぞうしょうでん」と読みます
長野在住
多肉含めて植物全般「今昔」いろいろを語ります
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